【全国通訳案内士試験】について徹底解説!

訪日外国人も多く、見どころの多い日本。

そんな時に外国人の方々に英語を通じて日本の魅力を伝えられるのは、素敵なことですね。

今回はそれがかなう「全国通訳案内士」という職業とその試験内容について見てまいりましょう。

全国通訳案内士とは

全国通訳案内士(以下、通訳案内士)は、気象予報士や行政書士と並ぶ優れた国家資格の一つです。

シンプルに言えば、「外国人に付き添い、外国語を用いて、日本の文化や伝統を伝える仕事」です。

それは、

・高度な外国語能力を持っている
・日本全国の伝統・地理・経済・歴史等の観光に関する高い知識を備えている
・「全国通訳案内士」として都道府県の登録を受けている

こんな条件を満たしている人たちのことを言います。

通訳案内士試験の「外国語」とは英語のほかに、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語があります。

単純に、語学力に長けているだけでは務まらない仕事で、一般常識や世界の時事など、広範囲の知識と共に、日本を分かりやすく紹介するという機転を利かせた対応が求められます。

自分がお世話した外国人が、日本に対して抱く印象を決める、第一線で活躍できる仕事でもあります。

通訳案内士の仕事が、「民間外交官」とも言われる理由はここにありますね。

仕事内容

民間外交官として、外国人にとっての日本理解に貢献でき、国際親善をサポートする通訳案内士の仕事内容は、やりがいに富んだものと言えます。

主な仕事内容を見ていきましょう。

●通訳ガイド業務
街や地域の文化、歴史を外国語で案内し、日本を楽しんでもらえるように工夫していきます。

●ツアーコンダクター業務
交通、食事、宿泊先の調整など、旅程の管理を行います。

●民間外交官業務
滞在中の生活サポートを行うために、外国人観光客の国と文化をよく学び、ニーズを把握します。

●コンシェルジュ業務
おもてなしの心とユーモアで、総合的にその場に良い雰囲気を創造していきます。

このような、相手が望むことを一生懸命考えられる、ホスピタリティ精神にあふれる業務が通訳案内士の代表的な仕事内容です。

これらを生かし、キャリアを積んで行くことができれば、一歩踏み込んだことも可能になってくるでしょう。

それは、観光時のおもてなしに限らず、その外国人客のビジネスの視察や研修、国際会議、世界規模のイベントなどでの活躍の場です。

きっとそれらは、よりダイナミックな仕事です。

自分の語学力とホスピタリティを生かした先には、通訳案内士としての可能性は無限に広がっているというわけです。

「通訳者」との違いは?

「通訳者」と「通訳案内士」は、似ているようで大きな違いもあります。
高い語学力が必要ということは、どちらにも共通していることです。
通訳者が、「相手の発言を他の言語で正確に訳していく」ことを仕事にしているのに対し、通訳案内士は、「自分なりに工夫を加えることも可能で、他の言語で分かりやすく案内していく」ことが仕事です。通訳者と比較すると、献身的な対応能力が評価してもらえるのが、通訳案内士です。

試験内容

通訳案内士になるためには、試験を受験する必要があります。

頻度は年に一度で、筆記試験(8月)口述試験(12月)の2段階判定です。

この試験は、年齢、性別、学歴、国籍などに関係なく受験することができます。

外国語を「英語」で受験する場合の試験概要を見てみましょう。

■一次・筆記試験■

マークシート方式で①~⑤の科目を受験します。

午前の部
① 10:00~12:00 (120分) 英語

 

午後の部
② 13:30~14:10 (40分) 日本地理
③ 14:40~15:20 (40分) 日本歴史
④ 15:50~16:10 (20分) 産業・経済・政治及び文化に関する一般常識
⑤ 16:40~17:00 (20分) 通訳案内の業務

■二次・口述試験■

実践能力の測定のため、約10分間の面接の中で、試験官に対して通訳案内を行います。
10:00~18:30までの1時間単位のスロットで、それぞれに集合時間が指定されます。

合格率

通訳案内士試験全体の合格率は、平均して20%程度です。

直近(平成30年度)の合格率は8.5%でしたが、これはオリンピック需要に向けて受験者が増加したためだと考えられます。

一次試験、二次試験でそれぞれに合格率が公開されていて、

一次試験の合格率は17%程度

二次試験の合格率は44~87%程度

です。

ここから分かることは、受験者が一次試験で、大きくふるいにかけられるということです。

つまり、まずは一次試験突破を目標にしましょう。

過去問~攻略法

ここからは、試験突破に向けて、科目毎に勉強すべきポイントを押さえていきましょう。

■一次・筆記試験■

【① 英語】

観光、文化に関する問題が多いので、歴史と観光に関する語彙は、特に意識して押さえておきましょう。
長文読解には、センター試験の英語で練習することがおすすめです。
英作文に関しては、過去問を解いて、作文構成の引き出しを増やしておくことが効果的です。

【② 日本地理】

観光に関連した地図を用いた問題が出題されています。
景勝地、特産物、位置関係まで把握しておきましょう。

【③ 日本歴史】

歴史、文化史、文学史、外交史、政治史まで把握しておく必要があります。
ガイドとしては、仏像名まで覚えていきます。

【④ 産業・経済・政治及び文化に関する一般常識】

一般常識として、産業、経済、政治、文化に関する問題が出題されます。
テレビや新聞などでの話題に、幅広く注目しておきます。

【⑤通訳案内の業務】

法改正によって平成30年度試験より新たに設置された科目です。
・関係法令に関する知識
・旅程管理の実務に関する知識
・訪日外国人旅行者の国別・文化別の特徴等に関する知識
・災害発生時等における応急的な医療対応や危機管理に関する知識
について、基礎的な内容を把握しておきましょう。

■二次・口述試験■

伝統文化への理解も必須ですが、最近の傾向として、流行語大賞にノミネートされるような新しい用語についての理解も試されています。

過去問を見てみましょう。

●読み上げられた日本語を聞いて、1分間の外国語訳を行う(約3分)

・相撲がこれまでの歴史の中で、競技から娯楽へ変遷し、現在では国際化まで果たしてきている説明
・日本の祭りが日本人の心の拠り所になっている説明

 

●与えられたトピックスから2分間でプレゼンをし、質疑応答(約5分)

神対応、インスタ映え、富士山、おでん、明治維新、ごみの分別、テレワーク、働き方改革

 

●通訳案内士に求められる現場対応についての質疑応答(約3分)

・電車での移動中に地震が発生し、運転が止まってしまっている。
アナウンスが日本語だけで、外国人客はとても怖がってしまっている。そんな時、どう対応するか。
・紅葉シーズンが終わってしまった後に、紅葉をどうしても見たいという観光客の要望にどのように対応するか。

以上、面接試験対策としては、数分の中でも、「プロフェッショナルになれる将来性」と、「丁寧に対応できること」をアピールすることが大切です。

自分の知っていることを話す機会ではなく、質問を受け止めて、心を込めて解決する機会であると心に留めておくことは、通訳案内士の本質を理解することにもつながります。

免除申請

試験科目には筆記試験①~⑤と面接試験がありますが、既に保持している資格があれば免除科目として、試験を受けることが不要となります。

例えば、外国語で「英語」を選択する場合には

●英検1級合格者
●TOEIC900点以上

を保持していることで「筆記試験 ①英語」の科目が免除となります。

その他にも、
「総合・国内旅行業務取扱管理者」保持者→「筆記試験 ②日本地理」科目免除
「歴史能力検定日本史1級・2級」保持者→「筆記試験 ③日本歴史」科目免除

等です。何か該当している免除科目があるかもしれませんし、受験願書にある「免除早見表」は良く確認しておきたいところです。

難易度

国家資格の中では中程度の難易度の試験です。

平成30年には「改正通訳案内士法」によって業務独占規制が廃止され、国家資格を持たなくても、有料で通訳案内業務ができるようになりました。

これを受けて、確かなスキルが証明されている「全国通訳案内士」の有資格者が優遇される可能性が出てきています。

実際に、観光庁のウェブサイトにも、通訳案内士制度の見直し方針が掲載されています。

‘具体的には、「通訳案内士」については、我が国の歴史や文化に関する正確な知識を有し、かつ、外国人旅行者に満足度の高い案内を行うことができる者として、憧れの職業となるよう位置づけを整理し直す’

つまり、これからも、試験の難易度は保持し、本当に優れた方を試験を通して発掘していく、そして、努力を重ね、国家試験に合格した際には、無資格の方々と差別化を徹底して、職業として独り立ちできるような仕組みを作っていこうという解釈です。

求人・アルバイト

求人・アルバイト

通訳案内士が活躍できる場所は観光ツアーだけというわけではありません。

ビジネス視察や研修、国際会議や各種イベントに携わっていくこともできます。

さまざまな用事で日本を訪れる外国人のためのガイドとして、活躍の場は多岐にわたっています。

より幅広い仕事を得るために、通訳案内士合格後も、知識とスキルのアップに努めていくでしょう。

フリーランスとして働く

通訳案内士として、フリーランスで働くことを目指している人は多いものです。

その場合には、「一般社団法人 日本観光通訳協会」に登録し、仕事を斡旋してもらうことになります。

国の統計を見ると、通訳案内士の年収で最も多いのは、「100万円未満」でした。

また、年間の稼働日数としても多くの人が「30日以下」という結果でした。

ここから分かることは、資格取得後の経験が浅いうちは、仕事を思うように取れず、一定の収入を確保していくことが難しいということでしょう。

ほとんどの登録者が、他に収入源を持つなどして、兼業やアルバイトの通訳案内士として従事しているようです。

語学力を活かして「通訳」「翻訳」の仕事と掛け持ちで働きながら、通訳案内士をしている人も多くいます。

さらに、日本には観光シーズンがあるため、繁忙期と閑散期によって仕事量は大きく変わってくるでしょう。

実力と経験を積んでいくことによって、フリーランスの良さである、一般企業に所属して稼ぐ以上のことができたり、自分の気に入った案件を担当できたり、といった良さにたどり着けることになります。

観光立国を目指す日本において重要な役割を持つ仕事なだけに、フリーランスであっても、より安定した雇用体制が期待されます。

旅行会社や代理店に就職

フリーランスで活躍する以外には、旅行会社に就職するという就業方法もあります。

特にアジア圏からの観光客が多くなったために、中国語、韓国語、タイ語などで案内通訳ができる通訳案内士の需要は年々高くなってきています。

企業によっては、通訳案内士の資格を持つ人を雇うケースが増え始めているようです。

その場合は、一年を通して通訳案内ができるわけではなく、閑散期には、別の部署に活躍の場が移ることもあるでしょう。

通訳案内だけにこだわらない働き方ができる場合には、こちらの方が、雇用条件や社会保障などの待遇面としては安定を得られるでしょう。

まとめ

明日の日本を支える観光ビジョンのサブタイトルが「世界が訪れたくなる日本へ」となっていて、とても素敵です。

その最前線で、語学力と勉強した知識、持ち前のホスピタリティ精神を余すところなく生かせるのは、試験に合格した実力のある全国通訳案内士たちと言えるでしょう。